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#02 「本屋を、始めようかと思うんですよね」

  • 2016年の年末年始。僕はニュージーランドの北島にいて、書籍の目次をデータベース化する試みを行っていた。


  • 年末年始の短い休暇を、ニュージーランドの北島、オークランドからバスで4時間ほど走らせたところにあるPaihiaという街で過ごしていた。Paihiaは、僕が育った長崎の街や、ほかに日本で好きな瀬戸内海沿いの雰囲気に似ていて居心地が良かった。休暇と書いたが、僕は人生で重要なあるプロジェクトを抱えていた。6年半の大学生活に終止符を打つための卒業論文と、卒業制作のプロトタイプ開発を行っていたのである。

    論文で選んだテーマは、「書籍コンテンツの理解を支援する視覚化手法の研究」。現在Google Booksは本の内容を全てスキャンし、検索対象とすることで人類の知を整理しようとしているが、僕はそこまでやるつもりはなかった。僕が着目したのは、本を読み始めるときに最初に目をつく、あれである。「目次」である。本を出版した経験がある人たちからは共感して頂けるだろうが、目次と言うのは、かなり重要である。時にそれは、書店で一瞬だけ立ち読みをしてくれた人のためのキャッチコピーとして振る舞うし、本を読む人にとっては、索引として機能したり、文節のコンテキストを理解するための要約の役割を果たす。だから目次と言うのは、著者と編集者がともに時間をかけて生み出した作品なのだと(少なくとも僕は)思っている。そして多くの場合、目次は固有名詞を含んでいるから、これをいじるのは面白そうだなと考えた。

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    この目次というものは、日本国立国会図書館などのデータベースにも掲載されているが、はっきり言ってただのデータベースに格納されたプレーンテキストにすぎない。世界最大の本屋、Amazonに載っている本の紹介文の目次も、セールスコピー程度である。つまり、書誌情報の目次というのは規格としてWebにもどこにも単独のデータベースとして概念的に存在していない。紙の本を読むと、目次は順序良く階層構造になって並べているが、その情報を二次元的な広がりでビジュアライゼーションさせることによって、書誌情報のコンテンツの理解を促進する、つまり目次をパッと読めれば、本の内容がすぐ頭に入ることができるのではないかと考えた。僕が高校時代から実践していた勉強法、学びたい本の目次をまず書き出して全体像を理解するということをシステムにしたかった。

    ビジネス書や技術書、実用書の類における目次は一般的に、階層構想のデータ構造を持つ。情報理論的に言えば木構造データベース。これらの目次に含まれるフレーズ、固有名詞は自然言語処理をする上で十分すぎるくらい楽しかった。単なる順序のある階層を、図のようにビジュアライゼーションさせて、一枚のA4用紙に収めるように配置する。(マインドマップのようなものをイメージしていただけると分かりやすい)

    前置きが長くなったが、僕がこのテーマを選んだとき、本について深く考える十分な時間を得ることができた。今年3月まで所属していた慶應義塾大学では、増井俊之教授の研究室に1年生の頃から度々お世話になってた。増井先生は、今もなおスマートフォンで使われている日本語予測変換システム「POBox」の開発者(発明者)として有名である。日本語予測変換(「ありがとう」、と入れると「ございます」が出てくる当たり前のような機能)を作った人に加えて、Appleから誘いの電話があってジョブズと面談し、iPhoneのフリック入力インターフェースを開発したことも有名だ。

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    先生は本が好きな人だったし、研究室にはたくさんの本が置いてあって、18歳で入学した僕はとてもわくわくしていたのを記憶している。本棚.org というWebサービスも立ち上げていて(先生はプログラマーで、どちらかと言うと家入さんが作ったブクログのほうがUI的に使いやすかった。)でも2つのサービスの着眼点は同じで、読書管理のためのWebサービスだ。今はアプリが主流であるが、個人的にはブクログよりも個人開発者によるアプリ「ビブリア」が使いやすく愛用している。でもクラウド上でデータが同期できる、決定的な読書管理アプリがまだ無いのであれば、僕たちは次に、それを作ってもいいかもしれない。

    結局、Paihiaでは釣りや日光浴に夢中になってしまい、卒論は4行くらいしか書けなかった。(その後、1月末の卒論提出締切日の夜、研究室の納会の飲み会のとき、ビールを飲まされながら増井先生の隣で、完璧に仕上げた。)

    思い返せばその頃すでに「僕、本屋を始めようかと思うんですよね」と先生に相談していた。

    増井研究室 - http://www.pitecan.com/

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